想到了好事
先週から冷え込み。きのうの朝は路面が凍結しており、ツルツルはしゃいでおりました。布団のなかは湯たんぽでびっくり快適で、外に出れば凛とした寒さで空気が冴えわたり、冬はいいことばかりだと思いながらも、それ以上に布団から出る瞬間の部屋の冷たさに絶望し、そりゃ情緒不安定になりますね。
今週の備忘録。
本【未読含む】
木村友祐『幸福な水夫』(未来社)※未読
装丁がすてきだったので買ってしまった。表紙が凝りに凝っていて、縦に面出しするとどんどん反り返る。家で平積みして上に重い本を載せると戻るが、本紙がふわふわに。気難しい本だな……限定1,500部とあって、重版の予定がないのかな、もしくは重版するなら簡易装丁になるのか。もったいない。
若竹千佐子『おらおらでひとりいぐも』(河出書房新社)※未読
芥川賞受賞、これは!と思うので買ってきた。読んでいないので完全なる好みなのですが、装丁はつるつるてんのコート紙よりもマットPP加工したりざらざらとした紙のほうが好きです。
近藤聡乃『ニューヨークで考え中』第2巻
『A子さんの恋人』もよい。このエッセイに出てくる作者とA子さんの性格がけっこう違っていて、A子さんは作者の若いころ心の中にいた自分を描いているのかな、などと想像する。そして、亜紀書房さんの本は最近よく目につきます。50周年だそうで、むかしからよい本を出していたのだな……と思いながらフェア棚をうろうろ。
青林堂は右派の出版社ですが、これはその右派のみなさまに外山恒一が左翼の歴史を教える、という体裁。共産党、旧左翼、新左翼の歴史がよくわかる。外山恒一は自身をファシストと主張しているが、最後に出てくる彼の主張は納得のいくもので、右や左やと一概にはレッテル貼りできないほど論理がしっかりしている。
カール・シュミット『パルチザンの理論ーー政治的なものの概念についての中間所見』(ちくま学芸文庫)※未読
権力からするりと抜け出るパルチザン。キリスト教右派の理論に興味があったのと、国家権力にとらわれない存在の捉え方を学ぼうかと思いつつ、おすすめいただいたので買った。
マルクス・ガブリエル『世界はなぜ存在しないのか』(講談社メチエ)※未読
読まねばと思い買ったものの、まだ読んでおりん……。講談社メチエ初のピンクの箔押しだそう。マルクス・ガブリエルはNHKプレミアム「欲望の資本主義」に出ていたのを見た。7か国語+古代ギリシア語、ラテン語、ヘブライ語ができるそうで、わたしは語学ができる人というのは無条件で信頼してしまうきらいがある。
これはいま気になっている本。みすず書房はいつもすてきな装丁ですが、いかんせん「みすず価格」……以下案内文より。「冷戦の影響がいまでも深く刻みこまれている〈東アジア〉において〈歴史〉も〈文学史〉も何もかもが流動的、そして進行形である。そして、それがまさに〈進行形〉であることを最もはっきりと示しているのが各〈語圏文学〉のまさに周縁に位置している〈マージナルな文学〉なのである。旧来の〈日本文学〉がどこまでも〈定住民の文学〉でしかありえなかったなかに、今日の〈日本語文学〉という広域的な人間の移動を背景にした〈移動民の文学〉を先取りするようなさまざまな様態がすでに刻みこまれていたということ(…)。リービ英雄や楊逸や温又柔らの華々しい登場は、けっして〈現代〉にのみ特徴的なものではない」
テレビ
坂元裕二『anone』第3話
『カルテット』からしか彼の脚本は追ってないが、「ギリギリのところで、いたたまれない展開にはしない人」という信頼感を勝手にもっているので、田中裕子と小林聡美の会話にはひやひやしながらも、「きょうも大丈夫……」と終えられると思っていたら、まさかの死。はやく来週の火曜日になってほしいです。それにしても、「お金に賭けられた生死」をめぐって広がるストーリーがみごと。だれかが弱っているときに立ち会えなにかできることを、奇跡とよびたいなとふと思う。
あっさりとした演技の石原さとみがあれほどかわいいなんてー! 市川実日子は言わずもがな、窪田正孝の人工的な雰囲気もよかった。昨今のドラマはどこか「女子の理想の働き方」が反映されている。たとえば「デートがあるので帰ります」と退社する石原さとみ(かわいい、『地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子』)、「残業代が超過しています」と上司にきっぱり言い放って定時よりも先に帰る市川実日子(かっこいい)とか、キョドキョドしながらも「ランジェリーが好きなんです」と水族館のフロアに座り込んで企画を立てる吉岡里帆(かわいい、『きみが心に棲みついた』)。
映画
アキ・カウリスマキ『希望のかなた(The other side of hope)』
待望の新作。青い壁、赤い絨毯、黄色い服の配色は相変わらずで好きです。ただ、いつもよりもほんのすこし政治色が高かった。本人がいうように意識的な「傾向映画」だったのでしょうが、ネオナチの人がなんの救いもなく悪者にされていた。そういう人でもどこかに救いがあるのがカウリスマキだったような気がしたのだが、はてな。
ステファス・プリゼ『女の一生(une vie)』
モーパッサン原作、男爵家のお嬢様がありとあらゆる不幸に見舞われる話。夫の浮気を「許してやれ」と神父や母から言われるシーン、夫が愛人ともども愛人の夫に殺されたあと、息子に全希望を託して「わたしにはわかるの」と叫ぶシーン、そして徐々に冷静な判断が下せなくなるシーン、心が痛む。と、心が痛んでばかりの映画。
★大学時代の恩師にひさしぶりに会った。もうすぐ退官で、最後の授業を終えたという。「これからなにしようか」と、戸惑いつつも楽しんでおられるようだった。林達夫の「自分の庭を耕せ」という言葉をもらった。……と思ったら、これヴォルテールの言葉なのかな。だれかになにかを言いたくなったら、この言葉を思い出す。