わたしを明け渡さない
東京に行った友人の名前をネットニュースで見つける。彼女は東京で居場所を見つけたのだと思うと、うれしかった。この世界のどこかでわたしの信頼する人が活躍する、これよりも背筋がシャキッとすることがあるだろうか。地を歩きはするけれども、どこかで鳥の視点に立たないと病んでしまう、その空飛ぶ高度が一段階上がったような感覚。
わたしは、削がれない。明け渡さない。わたしのものは、わたしのものだ。わたしの肉体はすべてわたしのものだ、と留保しつつ、あなたと溶け合えればいいのに、と思う。
下に列挙するように本の虫のわたしですが、これではいけない、と思う事件がいくつかあった。現実は進んでいく。文字よりも、ずっと早く。
本【既読・未読雑多】
朝吹真理子『TIMELESS』(新潮社)
なんてきれいな装丁だろうかと本屋さんで一目惚れ。未読なのでここからは完全なる想像(妄想)ですが、朝吹真理子はずるい。超ド級のインテリを醸し出しながら、美しくてかっこいいことを隠しもひけらかしもしない(のっけから高級香水の銘柄が出てくるというような)。庶民染みた物言いにへりくだることもまったくしない。沢尻エリカのような、「死ね」と言われて間髪入れずに「お前が死ねよ」と返す凄みはないが、ふっと鼻で笑えるくらいではあるに違いない。はー、ずるい、かっこいい。
装丁もいいし、抑制された語りも好き。
山崎まどか『優雅な読書が最高の復讐である』(DU BOOKS)
膝を打って同意した。未読だけど。
大森静佳『カミーユ』(書肆侃々房)
カミーユはカミーユ・クローデルからきているらしい。じっくり読むために、置いてある。でもいつでも読めるような手軽さが、歌集のよいところ。
クッツェーの最新作。読みやすくて、言葉がしみわたる。
文月悠光『適切な世界の適切ならざる私』(思潮社)
ふんわりほのぼのした詩だと思っていたら、ゴリゴリの鋭角でびっくりした。毎夜身を削られる思いをしながら一篇ずつ読んでいる。
5月末、大阪ロフトプラスワンの若林恵×tofubeatsのイベントに行く。「読みたいものを書け」という若林さんには以前から感銘を受けていて、資生堂花椿のtofubeatsアワーは毎月楽しみにしていて、そのふたりだというので行ってみたら、まあなんとお得な対談。3時間2000円。内容ぎゅうぎゅう。人の話はお酒を飲みながら聞くのがいちばんいいよね。『wired』の編集方針、「コンテクストを悟られるな」にしびれた。だからちょっと読みづらかったのか……と納得したし、わたし自身、コンテクストが把握できたものは半分くらい興味が削がれる。いかにコンテクストを悟らせず、みずからがコンテクストをつくりだしているのだという体で押すのは大事(見得を切るみたいなものだな……)。ただ、まったくコンテクストの読めないものを読むのは、とても体力がいる。たとえば巷にあふれるzineなんかは、そのために読むのが大変。それでも読むという体力と時間をいかに捻出するか(いかに好きになる糸口を見つけるか)、という話だなと思った。
デビュー作。ずっとずっと読みたいと思いつつ、思いついたときには文庫が棚に並んでおらず、つい先日大阪の本屋の大阪特集の棚でばったり出会った。もし高校生や大学生のころ読んでいたら、平手打ちされるような衝撃を覚えただろう。「魂の物語」と松浦理恵子が絶賛するのもわかる。この世界は弱肉強食、いつの間にか魂が削がれるようなできごとが多すぎる、それでもわたしはわたしの魂を守る、それがひるがえって、どこかの弱き者を救う(と信じたい)。
だいぶ昔に読んだ1冊だけど、アレサ・フランクリンが亡くなったのでひっぱりだして読んだ。上の『君は永遠にそいつらより若い』の解説が松浦理英子だったこともある。 この人はほんとうにさらりと線を飛び越える。
ジャン=パトリック・マンシェット『愚者が出てくる、城寨が見える』(光文社古典新訳文庫)
『眠りなき狙撃者』(河出文庫)
河出文庫のほうのみ読了。ザラついた森山大道の表紙が雰囲気とマッチして、いい。ロマン・ノワール、つまりアメリカのハードボイルド小説の影響下で書かれたフランスのミステリー小説らしい。特徴は主人公が犯罪者(wikipediaより)。むかしから北方健三あたりが好きだったので、なんだか懐かしい気持ちに。
訳者解題の充実ぶりに惹かれて購入。
アレン・ギンズバーグ著、富山英俊編訳『アメリカの没落』(思潮社)
なにを思ったのか、ビート文学を読もうかと。
タナハシ・コーツ著、池田年穂訳『世界と僕のあいだに』(慶応義塾大学出版会)
都甲さんいわく、現代のフランツ・ファノンらしい。
トニ・モリスン著、大社叔子訳『ジャズ』(早川書房)
トニ・モリスン著、大社淑子訳『青い眼がほしい』(早川書房)
読みたかったトニ・モリスン、積読。
ジュリー・オオツカ『あのころ、天皇は神だった』(フィルムアート社)
『屋根裏の仏さま』(新潮クレスト・ブックス)
音楽のような文章で、悲劇が語られる。
ミランダ・ジュライ『最初の悪い男』『いちばんここに似合う人』(新潮クレスト・ブックス)
ジョゼ・ルイス・ペイショット『ガルヴェイアスの犬』(新潮クレスト・ブックス)
外文づいている。『狂人の船』がとくにお気に入り。
『未明02』
ポエジィとアートを連絡するらしい。あんまり明るくないのでわからず、おもしろそう……と思って買った。が、案の定読み方がうまくわからないので、とりあえず置いておいて、じわじわ読む。
吉田秋生『カリフォルニア物語』『YASHA ―夜叉―』『イヴの祈り』
BANANA FISHはずっと前から好きだが、アニメでやっているのを観るとはなしに観ていたらまた読みたくなって、ちゃんと調べたら世界観が同じ漫画があるではないか……。ということで読んでみた。文句はまったくないんだけど、吉田秋生は容赦なく人を殺す。それがまったき現実であると宣言するかのように。
レベッカ・ソルニット著、ハーン小路恭子訳『説教したがる男たち』(左右社)
ケイト・ザンブレノ著、西山敦子訳『ヒロインズ』(C.I.P BOOKS)
フェミニズム関連の本。フェミニズムに関して、ちゃんと考えねばと思った。わたしのために。
以下気になっている本。
横山茂雄『聖別された肉体――オカルト人種論とナチズム』(書肆風の薔薇)
岸政彦『はじめての沖縄』(新曜社)
川瀬慈『ストリートの精霊たち』(世界思想社)
安田峰俊『八九六四 ――「天安門事件」は再び起きるか』(KADOKAWA)
ピーター・ポラマンツェフ著、池田年穂訳『プーチンのユートピア――21世紀ロシアとプロパガンダ』(慶応義塾大学出版会)
※池田年穂さんの訳書はどれも気になっている。タナハシ・コーツもこの方。